障がいをもった方々の毎日を、もっと笑顔にするために。
障がい者スポーツの現場でスポーツトレーナーとして活躍する中濱さんと、義肢装具士としてさまざまな人の暮らしを支える原見さん。そして、病気が原因で切断者となった鈴木さん。「支える人」と「支えられる人」、それぞれの思いを語り合っていただきました。
〔 対談に参加してくれた方 〕
鈴木 淳揮さん
鈴木 淳揮さん
2017年に右脚を切断する手術を受ける。現在は北海道科学大学で薬剤師をめざして勉強しながら、さまざまな障がい者スポーツを楽しんでいる。
中濱 有香さん
ブラインドサッカートレーナー、
柔道整復師
中濱 有香さん
北海道メディカル・スポーツ専門学校柔道整復師学科を2009年に卒業。現在は「あすりは整骨院清田」副院長で、ブラインドサッカーの現場でも活躍中。
原見 奨さん義肢装具士
原見 奨さん
北海道ハイテクノロジー専門学校義肢装具士学科を2015年に卒業。現在は株式会社田沢製作所で、主に装具を担当している。
生きるために選んだ、「切断者」という道。
鈴木:僕が切断者になったきっかけは、中学2年生の夏に発症した骨肉腫でした。水泳のあと、右脚がものすごく痺れて、立てなくなってしまいました。おかしいなと思って、整骨院にいきましたが原因が判明せず、整形外科で検査することを勧められました。親には「成長痛じゃないの?」などと言われながらも念のために検査しに行ったら、レントゲンで影が映ったんです。そこで悪性の骨肉腫ということがわかって、①人工関節にするか、②切断するか、③脚を一度切断して再び繋ぎとめる「ローテーション」という処置を行うかしなければいけなくなりました。
原見:「ローテーション」って、足首の動きを、膝の機能として利用するための手術法ですよね。
鈴木: そうです。当時、僕の骨肉腫に関する知識といえば、車椅子バスケの選手を描いたマンガだけでした。そのなかでも「ローテーション」が登場するのですが、マンガの描写を見る限りは、ちょっと気が引けてしまう手法だな…と思いました。ましてや切断なんて、その後の生活を想像することすらできなかったので、①人工関節を選びました。でも手術がうまくいかなくて末梢神経障害になってしまったんです。歩くことはできたので中学3年生の秋ごろに退院できたんですが、高校2年生の終わりごろには感染症になってしまいました。
骨肉腫
骨肉腫・・・小児の骨に発生する悪性腫瘍(がん)の中で最も頻度の高い代表的な骨のがん。
そのときは氷を当てて冷やしながらも日常生活はできました。そうして受験勉強も頑張って、大学に入学するんですが、しばらくすると膝の状態が悪化して、少し歩くだけで高熱も出るようになってしまったので、大学を休学しました。3年程そんな生活が続いて、大学も辞めなければいけなかったし、先生から「これ以上引き延ばしていたら、命に関わってくるかもしれないから切断したほうがいい」と言われたんです。それで2017年の1月に切断することを決意しました。
中濱:そのときはどんな心境でしたか?
鈴木:中学2年生のころからずっと思い悩んでいましたから、切断するということはやはり大きな決断でした。でも、手術後は高熱が出ないようになって、生活はとても楽になりました。それまでは病院に行くだけで疲れて、帰ったら39度の高熱が出るというような感じでしたからね。
障がい者の未来を支える。それが義肢装具士の使命。
原見:義足はどのように作られたんですか?
鈴木:僕の場合、父の知り合いにたまたま義肢装具士さんがいらっしゃったので、その先生に義足を作っていただきました。
原見:どのあたりで切断されているかによって、義肢も大きく変わりますよね。
鈴木:そうなんです。ふとももにソケットをつける「大腿義足」になるのかなと思っていたら、「股義足」になりました。最初のものは、足部を振り出すときに、地面につっかかってしまうくらいの長さでした。それを2週間ほどかけて調整していきました。手術直後は傷口が痛むし、腫れていました。また、退院後の日常生活では、意外なところで不便さを感じたりもしました。それぞれの状況でいろんな問題が発覚するたびに、修正する。それを繰り返していきました。義足は「自分のあし」なので、最善にするためにたくさん注文をしてしまいましたね。
原見:ちょっとした調整で、だいぶ変わってきますからね。私の仕事は、義肢や装具がその方に合っているかどうかを見極めることです。ご本人が「これでいい」とおっしゃっる場合もありますが、フィットしているかどうかは見るだけでもわかります。場合によってはイチから作りなおすこともあります。それでも毎日使うものですから、妥協せずに義肢や装具を適合させていかなければいけません。それがこの仕事の醍醐味でもあるんです。だから、どんどん注文してほしいですね(笑)。
鈴木:僕がお世話になっている義肢装具士さんは、いま通っている大学で教授として教鞭を執っています。だから、義足に違和感が発生したときは、すぐに相談できるので心強いです。
原見:毎日使うものだから、急に違和感が出てくることがあるんですよね。私の場合、その都度、病院にこれない方であれば、こちらから伺って調整したりもします。それで「いつもの感じに戻った!ありがとうございます」などとおっしゃっていただくと、やりがいを感じます。
中濱:原見さんは、普段はどのような方を担当されているんですか?
原見:私が勤めている会社は分業制になっていて、「義肢部」と「装具部」に分かれています。わたしは装具部に所属していて、腰の矯正コルセットなどを担当しています。特に高齢者の方が多いですが、側弯症の子どもたちのための装具も手掛けることもあります。成長していく中で症状が進行して手術しなければいけなくなったり、身体の自由が利かなくなったりしないように、しっかりサポートしていかなければいけません。そんな使命感のもとで適合させていくことを心がけています。
鈴木:義肢装具士さんは、わたしたちにとって本当に心強い存在です!
義肢装具士
病気や事故で手足を失った人や身体に障がいがある人のために、人工の手足や補助具を製作する専門家。
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大腿義足
大腿義足・・・膝から上の切断をされた方が使用する義足。
股義足
股義足・・・股関節離断の切断者に適用される義足。
側弯症
側弯症・・・脊柱が側方へ曲がり、そのうえ、ねじれも加わる病気。
パラスポーツの現場では、「支えすぎない」ことも必要。
原見:鈴木さんはいま、大学に通いながらパラスポーツも楽しんでいらっしゃるんですよね。
鈴木:車椅子バスケを中心に、車椅子ソフトボールやアンプティサッカーをやっています。
中濱:始めることになったきっかけはなんだったんですか?
鈴木:北海道メディカル・スポーツ専門学校に斉藤さんという障がい者スポーツを専門にやられているスポーツトレーナーの方がいらっしゃるんですが、実は僕の母校の先輩で、教育実習で高校に来て以来、僕のことを気にかけてくれていたそうなんです。それで切断したことを聞いた斉藤さんが、いろんなパラスポーツに誘ってくれました。ほぼ寝たきりの生活を3年間していたので、当初は自分の動けなさにビックリしました。でも、続けているうちに少しずつ動けるようになって、風を切る感覚を久しぶりに味わったときの感動はとても大きかったです。いまでは日常生活においての楽しみのひとつになっています。
中濱:わたしはブラインドサッカーの現場でスポーツトレーナーとしての活動をしていますが、そこの選手たちも、みんなトレーニングや試合に楽しそうに取り組んでいます。目が見えなくても、その楽しさを全身で表現しているようにも感じられます。
鈴木:トレーニングといえば、リハビリを始めた当初、担当の先生に「サイドブリッジ」という体幹トレーニングを1分間やってくださいと言われたことがありました。けっこうキツいので「先生、僕は3年間寝たきりだったんですよ?難しいです!」と伝えても、「やってもらわないと困るんだよねぇ…」みたいな感じで言われたりしました(笑)。
原見:けっこう、ドSな感じなんですね(笑)。
鈴木:でも、切断者だからって妙に遠慮されると、こちらもやりにくいところがあるんです。厳しくされたほうが、トレーニングに面白さを感じられるような気がします。そのときもリハビリに行く時間が楽しかったです。
中濱:できるところはやってもらわないと、という気持ちは分かります。ブラインドサッカーの選手たちは、目が見えないぶん感覚で動く方も多いです。試合や練習のときに壁にぶつかりそうになったらサポートはしますが、一人でできることは手を出さないようにしています。選手とトレーナーの信頼関係を常に大事にしながら、現場ではケアを行っています。
原見:具体的にはどのようなことを行っているんですか?
中濱:体幹などのトレーニングや、試合や練習の後のケア、テーピングなどですね。あとは選手の動きを見ながら、筋肉が足りない箇所を確認して、トレーニングメニューに加えたり、アドバイスを行ったりしています。特に身体のケアを行うときに、選手のみなさんの疲れを取って、リフレッシュしてもらえたときにやりがいを感じます。
鈴木:たしかに身体を動かして汗を流すのは、本当に気持ちいいものです。帰りにお風呂に寄れたら、最高にリフレッシュできます(笑)。
パラスポーツトレーナー
スポーツトレーナーとして質の高い知識・技能を有し、かつ障がいに関する専門知識を有し、アスレティックリハビリテーション及びトレーニング、コンディションを管理する仕事。
パラスポーツトレーナーついてもっと詳しい情報を見るパラスポーツトレーナーついてもっと詳しい情報を見る
アンプティサッカー
アンプティサッカー・・・主に上肢、下肢の切断障害を持った選手がプレーするサッカー。
サイドブリッジ
サイドブリッジ・・・体幹トレーニングの一種で主に身体の横側にある腹斜筋、腹横筋、中臀筋を鍛える。
ブラインドサッカー
ブラインドサッカー・・・視覚に障害を持った選手がプレーできるように考案されたサッカー。
めざすのは、おたがいに「支えあえる関係」。
中濱:私は、もともとパラスポーツや障がい者の方のケアに携わりたいという気持ちはなかったんです。柔道整復師として幅を広げたい、いろんな方に対応できるようになりたいと思って新しい職場を探していたら、いまのところを見つけたという感じ。たまたま辿り着いた現場ですが、やりがいは沢山あり、支えたいという気持ちになります。2年後には東京パラリンピックも開催されるので、何らかの形で現場に携われればいいなと思っています。
原見:障がい者スポーツには携わっていませんが、パラリンピックなどを見ていると義肢装具士にも力になれるんじゃないかなと思えるところがあります。チャンスがあれば携わっていきたいです。義肢装具士は、義手や義足などの義肢だけでなく、コルセットや足底板など、さまざまな装具も担当することが可能です。たくさんの方々の生活がより良くなって、笑顔になってもらえるように、これからも頑張っていきたいです。
鈴木:お二人のような「支える人」がいるから、わたしのような切断者の方、他の障がい者の方が、日常生活やスポーツを楽しむことができていると実感しています。支えられる有難さを知ったからこそ、僕もできるかぎり誰かを支えたいという気持ちがあります。いまは大学で薬剤師をめざして勉強に取り組んでいます。しっかり学んで、誰かを支えられる立場にもなれたらいいなと思います。スポーツでは、車椅子バスケに限らず、いろんな競技に参加して自分に合うものを見つけたいです。そしてゆくゆくはパラリンピックに選手として出場できるようになりたいです。
中濱:そのときは、ぜひトレーナーとしてケアさせてください!
原見:応援しています!